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名古屋高等裁判所 昭和57年(ラ)99号 決定

抗告人 株式会社白水劇場

右代表者代表取締役 石山建二郎

右訴訟代理人弁護士 岡本弘

同 矢田政弘

主文

原決定を取消す。

本件売却を不許可とする。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取消し、檜建設株式会社に対する売却を不許可とする裁判を求めるというのであり、その理由は別紙抗告理由書及び抗告理由補充書に記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  本件記録によると次の事実を認めることができる。

1  本件競売手続は執行債権者檜建設株式会社の抵当権に基づく申立により抗告人所有の別紙第一物件目録記載の不動産(以下「本件競売物件」という。)について開始されたものであり、右抵当権は昭和五六年五月二三日及び同年六月二三日付で共同で設定登記されている。

2  原裁判所は、本件競売物件の最低売却価額決定に際して、昭和五六年一〇月一九日五十嵐康幸不動産鑑定士に対し右物件の評価を命じたところ、同評価人は、同年一一月一八日付で評価書(以下「本件評価書」という。)を提出、同評価書において、本件競売物件につき近隣地域の地価水準及び地価公示価格を規準として、本件(1)の土地を金一〇二三万六〇〇〇円(一平方メートル当たり金一七万三〇〇〇円)、同(2)の土地を金一三三四万二〇〇〇円(一平方メートル当たり金一〇万五〇〇〇円)、同(3)の土地を金二八九六万円(一平方メートル当たり金一三万五〇〇〇円)、同(4)の土地を金三三九六万六〇〇〇円(一平方メートル当たり金一五万円)、同(5)の土地を金三六六八万六〇〇〇円(一平方メートル当たり金一五万円)とそれぞれ評価し、本件(1)ないし(5)の土地を一括売却した場合の価格を金一億二六四〇万七〇〇〇円(一平方メートル当たり金一四万五〇〇〇円)と査定した。そして、右評価人は、岡本正男が本件(1)の土地のうち一六・五二平方メートルにつき囲繞地通行権を、渡辺ミツルが本件(4)の土地のうち二三・一四平方メートルにつき賃借権を有しているほか、村瀬光彦ほか三名が本件競売物件のうち一七一・九〇平方メートルにつき賃借権を有しているとの主張をしているとし、本件競売物件に借地権等が発生する場合の借地権価格と底地価格の割合を五対五、本件競売物件に対し右借地権等が及ぶ範囲を二一一・五六平方メートル、その借地権価格を金一五三四万一〇〇〇円とし、これを前記土地価格金一億二六四〇万七〇〇〇円から控除し、これに市場性減価分として〇・八〇を乗じた金八八八五万三〇〇〇円を借地権等価格の付着した土地価格(底地)と評価した。

3  原裁判所は、同年一〇月一九日名古屋地方裁判所執行官に対し本件競売物件の現況調査を命じたところ、同裁判所執行官熊沢克男は原裁判所に対し昭和五七年二月二七日受付の現況調査報告書及び同年五月二九日受付の現況調査追加報告書を提出した。

右現況調査報告書及び現況調査追加報告書によれば、村瀬希勇は昭和二六年頃抗告人から本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルを期間を定めずに賃借し、現在、その賃料は一か月五〇〇〇円、年末払の約定でこれを占有していること、同人は右土地上に昭和五四年八月頃簡易物置車庫(約一五平方メートル)を建築所有しているほか、雑品置場として約一五平方メートルを使用していること、右土地上には登記された建物が存しないこと、岡本正之は昭和二三年頃から本件(1)の土地のうち右村瀬希勇の占有部分以外につき囲繞地通行権を有していること、坂田年夫は本件(4)の土地の一部に別紙第二物件目録(1)記載の建物を所有し、その敷地約二五平方メートルを占有しているが、同人は前所有者渡辺ミツルから右土地部分の賃借権(その前所有者渡辺隆房が昭和二五年頃抗告人から賃借したもの)を承継し、現在は月一五〇〇円の賃料を年末払していること(なお、右建物の登記簿謄本によれば、渡辺隆房は昭和五〇年一一月五日付で所有権保存登記を、渡辺ミツルは昭和五一年六月一八日付で所有権移転登記を、坂田年夫は昭和五六年一一月二七日付で所有権移転登記を経由していることが認められる。)、村瀬光彦は昭和三六年頃抗告人から本件(5)の土地のうち約一〇九・二〇平方メートルを期間を定めずに賃借し、現在、その賃料は年額一万八〇〇〇円、年末払の約定でこれを占有していること、同人は右土地の一部に未登記の木造瓦葺一部亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗兼居宅、一階約六五平方メートル、二階七五平方メートルを建築所有し、その敷地として約七〇・六〇平方メートルを使用し(ただし、現況調査報告書には、右建物の本件(5)の土地に占める床面積は約一五平方メートルとする記載もある。)、また、その余の三八・六〇平方メートル上にも別紙第二物件目録(2)、(3)記載の建物二棟を所有していたが、昭和五六年一月二七日火災により焼失したこと(右(2)の建物登記簿謄本によれば、村瀬光彦は昭和三七年五月七日付で所有権保存登記を経由していることが認められる。)が認められる。

4  原裁判所は、昭和五七年六月二日本件競売物件である本件(1)の土地には岡本正之が囲繞地通行権を有すること、また本件(4)の土地のうち約二五平方メートルには坂田年夫が賃借権を有していること、右両名の権利は買受人に対抗できること、本件(1)の土地に対する村瀬希勇の賃借権及び本件(5)の土地に対する村瀬光彦の賃借権は買受人に対抗できないことを内容とする物件明細書を作成し、更に、同年六月一〇日本件評価書に基づき本件競売物件を一括売却する最低売却価額を金九八八〇万円と決定するとともに、売却の実施を命じたが、同年七月五日右決定及び売却実施命令を職権で取消した。

なお、この間、村瀬光彦は同年七月二日原裁判所に対し、同人は昭和三五年頃抗告人から本件(5)の土地の一部を賃借し、右土地及び名古屋市南区柴田町三丁目七番の一、二の土地にまたがって、別紙第二物件目録(4)記載の建物を建築所有(右建物の登記簿謄本によれば、村瀬光彦は昭和三五年一二月二日付で所有権保存登記を経由していることが認められる。)していたほか、別紙第二物件目録(2)記載の建物を建築所有していたところ、右(2)の建物は火災により焼失したが建物の所有権保存登記を経由していたから、右賃借権は買受人に対抗できる旨の上申書を建物登記簿謄本とともに提出し、村瀬希勇も、昭和五七年七月五日原裁判所に対し、同人は本件(1)の土地上に床面積約三〇平方メートルの建物を以前建築所有していた旨の上申書を提出した。

5  原裁判所は、同年七月二八日改めて物件明細書を作成したが、同明細書には買受人が引き受けるべき権利として、岡本正之が本件(1)の土地に対し囲繞地通行権を、村瀬希勇が本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルに対し賃借権を、坂田年夫が本件(4)の土地のうち南西部分約二五平方メートルに対し賃借権を、村瀬光彦が本件(5)の土地のうち西、南西、南部分約一〇九・二〇平方メートルに対し賃借権をそれぞれ有することが記載されている。

6  原裁判所は、同年七月二八日、本件(1)の土地のうち約三〇平方メートル、本件(4)の土地のうち約二五平方メートル、本件(5)の土地のうち約一〇九・二〇平方メートルにつき買受人に対抗できる賃借権等があるものと認定したうえ、本件評価書に基づき本件競売物件を一括売却した場合の評価額金一億二六四〇万七〇〇〇円から右賃借権等の面積に対応する借地権等価格金一一九〇万四五〇〇円を控除し、これに市場性減価分として〇・八〇を乗じ、本件競売物件を一括売却する最低売却価額を金九一六〇万円と決定するとともに、売却の実施を命じた。

7  原裁判所は、同年八月二六日までの入札期間中に三名の入札者を参加させ、同年九月九日最高価買受申出人である檜建設株式会社(執行債権者)に金一億二六九〇万円で売却許可の原決定をした。

このように認めることができる。

二1  抗告人は、原裁判所が決定した本件競売物件の最低売却価額金九一六〇万円は五十嵐評価人の評価に基づくものであるが、右評価人の査定にかかる本件競売物件を一括売却した場合の評価額金一億二六四〇万七〇〇〇円は、固定資産評価額、地価公示価格例、取引事例価格一例を価額資料として、単に公示価格例一平方メートル当たり金九万一七〇〇円に一・六倍を乗じた一平方メートルに当たり金一四万五〇〇〇円を本件競売物件の価格とし、これに面積を乗じて算定したものであり、右評価額が合理的なものであることについての説明が欠けているから、右評価人作成の本件評価書は評価額の算出の過程(民事執行規則三〇条)を記載した評価書に該当しない旨主張する。

しかし、本件評価書によると、五十嵐評価人は、本件競売物件の位置及び付近の状況、公法上の規制、土地の概況、土地の利用状況を調査したうえ、本件(1)ないし(5)の土地の固定資産評価額一平方メートル当たり金三万四八三〇円、地価公示価格一平方メートル当たり金九万一七〇〇円(昭和五六年一月一日、公示地、名古屋南五―一、南区柴田町五丁目一四番、宅地一七五平方メートル、長方形、西七メートル市道、一方路、商業地域、容積率四〇〇パーセント、準防火地域)、取引事例価格一平方メートル当たり金二一万一七五〇円(昭和五五年六月、名古屋市南区鶴見通一丁目地内、宅地三六三平方メートル、長方形、北二四・五メートル市道、一方路、住居地域、容積率二〇〇パーセント、準防火地域)を評価資料として、近隣地域の地価水準を考慮し、右公示価格を規準とし、本件(1)の土地を金一〇二三万六〇〇〇円(一平方メートル当たり金一七万三〇〇〇円)、同(2)の土地を金一三三四万二〇〇〇円(一平方メートル当たり金一〇万五〇〇〇円)、同(3)の土地を金二八九六万円(一平方メートル当たり金一三万五〇〇〇円)、同(4)の土地を金三三九六万六〇〇〇円(一平方メートル当たり金一五万円)、同(5)の土地を金三六六八万六〇〇〇円(一平方メートル当たり金一五万円)、本件(1)ないし(5)の土地の一括売却価格を金一億二六四〇万七〇〇〇円(一平方メートル当たり金一四万五〇〇〇円)とそれぞれ査定していることが認められる。この事実に、本件競売物件のように都市計画区域内にある土地(本件評価書により認められる。)の適正評価については、地価公示法六条の規定により公示された標準地の価格(公示価格)を規準としなければならないとする同法八条の規定の趣旨及び同法の立法目的を併せ考えると、右評価人による本件競売物件の評価方法は不相当なものとはいえず、また、本件評価書には評価額の算出の過程が記載されていないとはいえない。よって、本件評価書には、評価額の算出の過程が記載されていないとの抗告人の主張は採用できない。

2  抗告人は、五十嵐評価人が規準とした公示地の公示価格は本件競売物件と市街の形成状況、地域開発状況、接面街路の幅員と通行量、面積の広狭などの条件を異にしているほか、抗告人が昭和五七年六月三〇日原裁判所へ提出した不動産鑑定士小田賢治作成の鑑定評価書(以下「小田鑑定」という。)に採用されている公示価格例「公示地、名古屋南五―一、南区三吉町一丁目二七番、宅地一九三平方メートル、北一一メートル市道」は近隣商業地域にすぎず、接面街路の幅員と交通量、地域開発状況、市街の形成状況なども本件競売物件より劣る条件にあるにもかかわらず、昭和五七年一月一日現在一平方メートル当たり金一六万四〇〇〇円とされていることに照らすと、右評価人が採用した公示価格例は本件競売物件の価格評価の参考資料となし得ないと主張する。

しかしながら、本件評価書によると、本件競売物件は、名鉄常滑・河和線「柴田」駅の北方約三〇〇メートル(道路距離)に位置し、柴田本通(国道二四七号)の西側に所在する二、三階程度の飲食店舗、日用品店舗及び一般住宅等の混在する商業地域にあり、都市計画法上、商業地域(建ぺい率八〇パーセント、容積率四〇〇パーセント)、準防火地域の指定があることが認められ、また、昭和五六年四月一日付官報(その存在は当裁判所に顕著である。)に掲載された土地鑑定委員会公示第一号及び本件評価書によると、五十嵐評価人が規準とした公示地は、右名鉄柴田駅の東方九〇メートルに位置し、柴田本通(国道二四七号)の西側に所在する駅前の小規模な商業地域にあり、都市計画法上、商業地域(容積率四〇〇パーセント)、準防火地域に指定されていることが認められる。この事実によると、本件競売物件と右公示地とは、土地の用途が同質と認められる近隣地域内にあり、その土地の利用状況、環境等も類似しているものと推認することができ、五十嵐評価人が右公示地の公示価格を規準として本件競売物件の価格を査定したことは相当であるということができる。

これに対し、小田鑑定に採用されている公示価格例は昭和五七年一月一日現在のものであるほか、本件競売物件とは地域性、土地の利用状況及び環境等を異にしており、また、本件競売物件が右公示価格例より地域性等地価形成要因において優っているものと認めるに足りる具体的資料も存しない。よって、五十嵐評価人が採用した公示価格例は本件競売物件の価格評価の参考資料となし得ないとする抗告人の主張は到底採用できない。

3  抗告人は、五十嵐評価人の本件競売物件を一括売却した場合の評価額金一億二六四〇万七〇〇〇円(一平方メートル当たり金一四万五〇〇〇円)は、多数の取引事例に基づき合理的に査定された小田鑑定の一平方メートル当たり金一八万八〇〇〇円に比し低廉であり、近隣地域における取引事例価格、実勢価格を全く反映しておらず、原裁判所が右評価に基づき本件競売物件の最低売却価額を決定したのは、民事執行法六〇条一項の趣旨に悖り、最低売却価額の決定またはその手続に重大な誤りがあるものといわなければならない旨主張する。

ところで、評価人による競売物件の評価額及び最低売却価額が単に低廉であるというようなことは、原則として、民事執行法一八八条が準用する同法七一条六号の売却不許可事由に該当しないだけでなく、前叙のとおり五十嵐評価人が本件競売物件の近隣地域の地価水準を考慮し、地価公示価格例を規準として、その一括売却における評価額を金一億二六四〇万七〇〇〇円(一平方メートル当たり金一四万五〇〇〇円)と査定したことをもって社会通念上不相当とすることはできない。また、右評価額と実勢価格等との間に、社会通念上容認できない程度の不一致があることを認めるに足りる具体的資料も存しない。

しかしながら、原裁判所が右評価額を基礎として本件競売物件の最低売却価額を金九一六〇万円と決定したことには、後記のとおりその過程に重大な誤りがあるものといわなければならない。

4  抗告人は、原裁判所は昭和五七年七月二八日作成の物件明細書において、買受人が引き受けるべき権利として、村瀬希勇は本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルに対し賃借権を、村瀬光彦は本件(5)の土地のうち約一〇九・二〇平方メートルに対し賃借権をそれぞれ有するものと記載し、かつ、最低売却価額の決定に当たって、右両者の賃借地の面積に対応する借地権価格を控除しているが、右賃借権は抵当権者及び買受人に対抗し得ないものであるから、物件明細書の作成及び最低売却価額の決定及びその手続には重大な誤りがある旨主張する。

(一) 村瀬希勇の関係についてみるに、前記一3認定のとおり、現況調査報告書には、村瀬希勇は昭和二六年頃抗告人から本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルを期間を定めずに賃借し、現在、その賃料は一か月五〇〇〇円、年末払の約定でこれを占有し、同地上に簡易物置車庫(約一五平方メートル)を建築所有するほか、雑品置場として約一五平方メートルを使用しているが、右土地上には登記された建物は存しないことが記載されている。また、本件全証拠資料によるも、村瀬希勇が過去及び現在においても右土地に建物登記を有したことを認めるに足りず、前記一4認定のとおり同人が昭和五七年七月五日原裁判所に提出した上申書によっても、同人が右土地上に建物登記を有したことを認めることができない。更に、同人が本件(1)の土地に対し賃借権の設定登記を経由していることを認めるに足りる証拠資料もない。このように村瀬希勇は本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルにつき賃借権設定登記または同地上に建物登記も経由しているものとは認められないから、現況調査報告書に記載のある賃借権は買受人に対抗できないことが明らかである。

ところで、民事執行法六二条が不動産競売において、不動産に係る権利の取得で売却により効力を失わないもの(差押債権者の権利に対抗することができ、買受人が引き受けるべき権利)を記載した物件明細書を作成し、その写しを現況調査報告書及び評価書とともに執行裁判所に備え置かなければならないとした目的は、賃借権等買受人が引き受けるべき権利関係の存否は当該不動産の実質的価値に影響するところが大きいところから、その不動産の権利関係、売却条件を明確にし、買受けを希望する者が安心して買受けの申出ができるようにし、かつ、それによって競売の信用を維持しようとするところにあるものと解すべきである。そうだとすると、買受人に対抗することのできないことが明らかな賃借権を対抗し得るかのように物件明細書に記載することは、右目的に反し違法であり、右違法は売却の効果に影響を及ぼすものというべきであるから、民事執行法七一条六号の売却不許可事由に該当するものというべきである。従って、原裁判所が本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルに対する村瀬希勇の賃借権は買受人に対抗することができないのに、これを対抗し得る旨物件明細書に記載したことは物件明細書の作成に重大な誤りがあった場合に該当するものといわなければならない。

更に、原裁判所は、前記一6認定のとおり、本件競売物件の最低売却価額の決定に当たって、本件(1)の土地のうち約三〇平方メートルにつき買受人に対抗できる賃借権があるものと認定して、本件競売物件を一括売却した場合の評価額から右賃借地の面積に対応する借地権価格を控除しているが、これも、買受人に対抗することのできない賃借権を対抗できるものとしてその賃借権価格を控除した点において売却の効果に影響を及ぼすものであるから、右最低売却価額の決定には民事執行法七一条六号所定の売却不許可事由があるものといわなければならない。

(二) 村瀬光彦の関係についてみるに、前記一3認定のとおり、現況調査報告書には、村瀬光彦は昭和三六年頃抗告人から本件(5)の土地のうち約一〇九・二〇平方メートルを期間を定めずに賃借し、現在、その賃料は年額一万八〇〇〇円、年末払の約定でこれを占有しているところ、同人は右土地の一部に未登記の木造瓦葺一部亜鉛メッキ鋼板葺二階建、店舗兼居宅、一階約六五平方メートル、二階約七五平方メートルを建築所有し、その敷地として約七〇・六〇平方メートルを使用していることが記載されているが、他方、右報告書には右建物の本件(5)の土地に占める床面積は約一五平方メートルであるとする記載がある。また、前記一4認定のとおり、村瀬光彦が原裁判所に提出した上申書によると、同人は本件(5)の土地、名古屋市南区柴田町三丁目七番一、二の土地にまたがって別紙第二物件目録(4)記載の建物を建築所有していた旨の記載があり、右(4)の建物は現況調査報告書記載の前記建物と同一であると認められるけれども、右(4)の建物の敷地が本件(5)の土地のどの範囲にまで及んでいるかについては明らかでない。更に、前記現況調査報告書に添付されている申請人を村瀬光彦、被申請人を抗告人とする名古屋地方裁判所昭和五六年(ヨ)第五一七号、第六八二号仮処分申請事件につき昭和五六年一一月三〇日成立した和解調書によると、村瀬光彦は本件(4)、(5)の土地の各一部につき建物所有を目的とする賃借権を有することを確認する旨の条項があるが、これによっても、右(4)の建物の敷地が本件(5)の土地のどの範囲にまで及ぶかについては明らかでない。このように右(4)の建物の本件(5)の土地に対する敷地範囲は明確でなく、従って「建物保護ニ関スル法律」によって賃借権の保護を受け得る限度も明確にされているとはいえない。

更に、前記一3認定のとおり、現況調査報告書には、村瀬光彦は本件(5)の土地のうち三八・六〇平方メートルの地上に別紙第二物件目録(2)、(3)記載の建物を所有していた旨記載されているが、右(3)の建物は未登記であり、前記村瀬光彦の上申書によるも、これが登記されていたことを認めることはできない。また、村瀬光彦が本件(5)の土地に対し賃借権の設定登記を経由していることを認めるに足りる証拠資料も存しない。

以上のとおり、建物登記のある右(4)の建物の敷地として、本件(5)の土地に対し「建物保護ニ関スル法律」により対抗力を及ぼし得る範囲が明確でなく、また、右(3)の建物については建物登記がなく、その敷地の賃借権については買受人に対抗することができないのに、これらの点を明確にせず、原裁判所が村瀬光彦は本件(5)の土地のうち約一〇九・二〇平方メートルに対し買受人に対抗できる賃借権を有する旨を記載した物件明細書を作成したことは、民事執行法七一条六号所定の物件明細書の作成に重大な誤りがあった場合に該当するものというべきである。

更に、原裁判所は、前記一6認定のとおり、本件競売物件の最低売却価額の決定に当たって、本件(5)の土地のうち約一〇九・二〇平方メートルにつき買受人に対抗できる賃借権があるものと認定して、本件競売物件を一括売却した場合の評価額から右賃借地の面積に対応する借地権価格を控除しているが、これも、買受人に対抗することのできる賃借権の範囲を明確にしないまま前記のように賃借権価格を控除した点において売却の効果に影響を及ぼすものであるから、右最低売却価額の決定には民事執行法七一条六号所定の売却不許可事由があるものといわなければならない。

三  以上の次第で、原裁判所の本件競売物件に関する物件明細書の作成及び最低売却価額の決定には、民事執行法一八八条の準用する同法七一条六号所定の売却不許可事由があるものといわなければならないから、結局、抗告人の本件抗告には理由がある。

よって、原決定を取消し、本件売却を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 可知鴻平 裁判官 佐藤壽一 玉田勝也)

〈以下省略〉

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